君のブレスが切れるまで
 私は言葉に詰まってしまい、視線を彼女から背けた。昔から少しでも言葉に詰まると途端に話せなくなる。こうなると私はもう話すことを諦めてしまい、結果、相手の意見が通ることになる。
 家でも学校でもそうだった。私の意見が通ることなんて、ほとんどない。


 視界ぎりぎりのところで、雨が立ち上がるのが見える。このまま買いに行っちゃうのかな。
 もしそうなら、ずっとブルーな気分でこのソファに座り続けることになるのか、なんて考えが浮かんでくる。それなら気に入ったってちゃんとはっきり言えばよか――


「え……」


 急に雨に手を取られ、困惑の声を上げる私。
 そして彼女の視線、赤い眼が私の視線と交り合う。


「本当に気に入らない? 奏の言葉で教えて欲しい」


 息を呑むほど綺麗な瞳に私は見つめられ、誤魔化すという考えすら出てこなくなった。
 きっと今の私は、この眼に嘘はつけない。


 今までいなかった。誰もが自分の意見を通そうって考えの人ばかりで、私にそんなことを言ってくれる人なんて。
 口から零れ出す本当の気持ち。
 家具屋さんでするような話じゃない気もするけど、きっと相手が雨だから、そんな事もどうでもよく思えてしまうんだ。


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