君のブレスが切れるまで

第12話 無表情の奥

 2017年 8月中旬


 猛暑は人間の体力をこれ以上なく奪っていく。水分補給をこまめになんて世間では謳っているけど、力のある人はこれまでに何人の犠牲を生んできたんだろう。
 部活中、生徒へ水を飲ませなくて倒れたなんていう話もまだ新しい情報だ。


『世界に病気の無い、健やかな未来を。ミヤノジョウグループは新薬の開発、その他、多くの分野にも――』


 どこからかテレビコマーシャルの音が聞こえてきた。
 野菜の入ったビニール袋を右手に、このビルだらけのジャングルを歩いていると、それはすぐに見つかる。
 一階のフロアが開けている電気店のようで、様々な大きさのテレビが置かれたショーケース。コマーシャルが終わったのか、画面には既にニュース番組が流れていた。


『今日も暑いですねー! 特に熱中症には十分に気をつけてください! 今年も倒れた方が多くいらっしゃいます! こまめに水分補給を取りましょう!』


 倒れた方が多くいらっしゃいますなんて縁起でもない……なんなの、この人は。
 心の中で画面に映る人に苦言を零してしまう。


 でもやっぱり、夏はそういう報道ばかりだ。いくら報道したとしても熱中症で倒れる人はいる。
 今となってはテレビを通さなくても、スマホを通してニュースを見ることが可能だ。


 小さい頃はテレビじゃないとそんな情報は得られなかったけど、そういった小難しい報道は好きじゃなかったし、アニメや人形劇といったものを見るほうが楽しかった。
 だから熱中症の犠牲者は昔と比べて減っているのか、増えているのかわからない。


「暑い……夏なんて無くなっちゃえばいいのに」


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