君のブレスが切れるまで
 §


 中学生になって、さらにこの性癖は加速していくこととなる。
 本当に困ったものだと自分でも思うが、楽しいのだから仕方がない。人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。
 この頃、特にあたしと仲良くなった二人がいる。


『一生のお願いだよー! あやか、聞いてくれるだけでいいんだってー!』


 口調が軽い感じの潤井(うるい) (めぐみ)と、


『恵、この前もあやかに一生のお願いを言ってた気がするよー?』


 柔らかい物言いの白鳥(しらとり) 日向(ひなた)


 日向の言ったように、恵の一生のお願いを聞くのはこれで二度目。だが、あたしとて友人の頼みを無下にするつもりはない。なんだかんだ、面白い話を持ってきてくれることもあるからだ。


『自由に使えるお金がほしい?』
『うん! 美味い話。あやかだったら、何か知ってるかなってさ!』
『恵だけずるいよー、私も聞きたいなー!』
『まったく、あんたたちは……。でも、そうね――』


 恵の持ってきた話は、あたしにとって面白い話だった。お金についてはそう気にしたことはなかったが、確かに自由に使えるお金というのはあって損はない。


 そしてあたしの強運にかかれば、その美味い話はすぐに見つかる。


 学校帰りの電車で、痴漢をしているおっさんだ。
 触られているのはあたしらの誰でもなく、知らない女学生だ。つまり、あたしらには何の損もない。
 電車内は多少混み合ってはいるが満員電車ではない。この状況でやることをやれるおっさんは随分と勇気がある。実際は無謀の間違いだろうが。


 ま、なんにせよ格好の獲物だ。証拠さえ撮っておけば何とでもできる。
 あたしは舌なめずりをして恵へと指示を出すと、恵は女の人を痴漢しているおっさんへスマホのカメラを向けた。


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