君のブレスが切れるまで
「暑い……な……けど、売り切れとかじゃなくてよかった……」


 とりあえず必要な物をすべて買え揃えることができてホッと一息。後はマンションへと帰るだけだ、ここから家までの距離はそんなに遠くない。


「待ってて、今帰るから」


 安堵感からか少しだけ笑みを作ると私は掲げた腕を下ろし、マンションの方角へと駆け出す。
 駆け出したはずだった。


「……!」


 だが、私は前へと進むことはできない。走ろうとした寸前、誰かに腕を掴まれたのだ。


「奇遇だね、奏ちゃん?」
「っ――⁉」


 咄嗟の出来事と聞き覚えのある冷たい声に私の体が硬直する。先程の暑さは嘘のように消え失せ、代わりに全身から冷や汗が吹き出る感覚に陥る。
 心臓を掴まれる思いというのは、まさにこのことを言うのだろう。


 こんなところにいるはずがないという切実な思い、その先にいるのが別人であってほしいという願望。
 それを打ち砕かれるとわかっていても私はそう願わずにはいられなかった。


 時が止まったような感覚の中。私はゆっくりと、スローモーションといった具合で首を回していく。
 私の瞳に映ったそれは、見事に私の願望を打ち砕いた。


「久しぶり」
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