君のブレスが切れるまで
 この感覚はものすごく嫌だった。
 脳が揺れ、目に映る世界がすべて逆転する感覚に、とても気分が悪くなる。
 手も付かず地面へと倒れ込む私。バランスを司る三半規管がいうことを聞いてくれなくて、立ち上がることができない。


「せっかくの夏休みだからさ、顔を殴っても問題ないよねぇ?」
「ぁ……ぅ……」


 髪を捕まれ、今度は左頬を殴りつけられる。


「ぶっ……ん、ぐ……くぅぅ……」
「この感覚。おもちゃを壊すのは大好きなんだよね……私」


 痛いってもんじゃない、血という名の鉄の味が口いっぱいに広がる。


 だけど……それでも私は逃げる算段を立てていた。この時だけは、精神と肉体が別れるこの感覚に感謝する。


「だけどさ――」
「うぅ……あぅっ!」


 髪を後ろへと引っ張られ、仰向けに倒れ込んでしまう。次に目に映ったのは、私のお腹を踏み抜こうとする足。


「それを邪魔されるのは大嫌い!」
「がはぅぅ、ぎゃ……ああぁぁぁぁああっ!」


 逃げるように少しだけ体を回転させるが避けきれず足は横腹へと落ちてくる。ハンマーで殴られたような鈍痛が私の体を駆け巡った。
 これ以上の暴力を受けるのはまずい。
 脳の揺れたダメージが抜けきっていない今、満足に動けるのかすらわからないのに。


「でさ、どうも宮城はあんたを大切に思ってるようじゃない? 痛めつけるならそれがいいかなと思って」


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