君のブレスが切れるまで
 笑みを浮かべるあやか。
 雨を痛めつけるために、私を殴る。自分の楽しいことをやれるついでに、雨にも精神的なダメージを負わせられる。この女にとってはまさに一石二鳥だろう。


 酷い、世の中にはこんな人間もいるんだ。
 私だけなら良かったのに、雨にそんな思いをさせることになるかもしれないなんて、私は本当に生きてる価値、ないなぁ。


 あぁ……私なんか死んじゃえばいいのに。


 そう考えると、背中から冷たい死が近寄ってくる感じがした。
 身体が少しずつ冷たくなっていく。実際にはただ地面が冷えていて、それが私の体温を奪っていっているだけなのに。
 これが死なのだと錯覚させられる。
 同時に恐怖を感じなくなっていった。


「…………」


 なんだろう、おかしいなぁ。今ならこの暴力の支配からも抜け出せる気さえしてくる。
 左手に持ったビニール袋を強く握り締め、仰向けになると、あやかの足のプレッシャーに押し勝つように起き上がっていく。


「立ち上がんな。許可してねぇから」


 もう一度、今度はちゃんと腹部を踏み抜かれる。


「あぐっ! げほ、あうぅっぅぅぅっ!」


 痛くない……痛くない。叫び声を上げてるのは私の体、私の精神までには届かない。
 雨が待っている、早く帰るんだ。


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