君のブレスが切れるまで
 マンションの十七階。自宅の扉を開け、私はリビングへと足を進めた。すると、


「あ、雨⁉ どうしてこんなところに⁉」


 雨がうつ伏せになり倒れていた。私は彼女を腕に抱き、上体を上に向ける。


「おかえり、なさい奏。すごく心配していたのよ…………その傷は……?」
「そんなのは後! 早くベッドに戻らないと……」


 抱いているだけでも熱が高いのがわかる。私は彼女に肩を貸し、雨の部屋へと戻っていく。
 そしてベッドへ彼女を寝かしつけると、すぐに薬と水を用意した。


「これ飲めばきっと少しは辛くなくなるから……大丈夫? 飲める?」
「ええ……ありがとう、奏」


 無表情で白い肌はいつもと違い赤く紅潮していて、瞼もいつもより重いのか、パッチリとはしていない。
 私から受け取った薬と水を飲み込むと、またベッドへと横になった。
 聞いていいものか、悪いものか。でも聞かなくてはいけないことだ、その上で怒らないといけない。


「どうして……ベッドから出てたの……」


 雨は少しだけ口を噤む、何を言おうとしてるのか考えているのだろうか。


「奏の身に何かあったと思って、飛び出してしまったの」


 閉じた口を開いて、赤い眼の女の子はそう言ってくれる。
 にわかには信じがたい、普通ならそうだ。だけど彼女は私の危機に何度でも現れた。だから、この言葉は信じられる。
 しかしそれを考慮しても、今回は怒らなきゃいけない。
 脳裏に焼き付く、血溜まりに沈んだ女の姿が思い出される。


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