君のブレスが切れるまで
 旅行。海外ではないけどクリスマスの後には彼女の実家に赴く。
 その後の私はきっと、今以上に雨のことを知っていることになる。それを知った上でなら、何か変わったりするのかな。


 そんなことを考えていると、チリチリチリリリン! と急にけたたましい鐘の音が鳴り響き、私は強制的に現実へと引き戻される。何事かと受付の方を見てみると、


「おめでとうございます! 一等が出ましたー!」
「やったぁぁぁぁぁぁ!」


 喜んでいるのは先ほどの親子。
 ああ、当たらないと思っていたのに一等が出たんだ。気がついたら、このくじは最終日二日前。当たりくじが入っていても不思議じゃない。
 ここまで来ると自分の運がいいのか悪いのかわからなくなる。
 ボーッとした目でその光景を見ていると、商品を受け取った母親は私の方をチラッとだけ見て、逃げるように人混みの中へと消えていった。


「なにそれ……」


 私は吐き捨てるようにそう呟く。私の抽選券で当てられたからどうだとか、悔しいとかは思わなかったけど……何もなく、そうやって人混みに消えていった親子に苛立ってしまった。
 わかってる。全員が全員、そうじゃないというのは知っているつもり。たまたま今日、私が関わった親子が人の黒い部分の塊であっただけ。
 でも、こんな……こんな風に気分を害する為ここへ来たわけじゃないのに……!


 さっさと帰ればよかったと私は歯を軋ませ、ベンチから立ち上がる。
 人の心はとても醜い。だが、自分も人間であることに嫌気が差す前に思い込む。


 渡した抽選券で賞品を当てられたのが悔しい、と。


 こういう風に逃げ道を作るのは得意になった。そうじゃないと心から潰れていってしまうのは知っていたから。この最低な世界で死にたいって思わないようにする、私の精一杯の抵抗。
 握っていた拳を解き、またもやため息を吐く。
 ため息は幸せが逃げていくと言われているが、どうしても今日はため息ばかりの日になった。
 休憩したはずなのに足取りは重い。私は荷物を持ち変えると最低な気分のまま帰路についた。
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