君のブレスが切れるまで
「……いきなり追い出すなんて、悪いことしちゃったな」


 自分の考えだけを押し付けた、軽率な行動を反省する。
 とりあえずプレゼントは夜にでも渡そう。こんなことになるなら、イヴの夜にでも渡しておけばよかった。
 少しだけ、窓の外を見てボーッとする。
 今日はクリスマス、私がサンタさんの存在を信じなくなったのはいつ頃だったんだろう。雨は信じていたりするのかな?
 いい子の元へやってくると言われているサンタ。私は……いつからいい子じゃなくなった?


「なーんて。んしょ……っと」


 そんな考えを打ち払うよう、私はそう言うと立ち上がる。とりあえず、さっきのことを雨に謝りたかった。
 パジャマから部屋着へと着替え、長くなった前髪をM字に分ける。


「雨、さっきはごめんねー!」


 そう言いながら私は扉を開けると、リビングには雨の姿がない。目についたのはダイニングテーブルの上にあるラップのかけられたサラダ。同じくベーコンと目玉焼き。そして、


「置き手紙だ。えーっと新幹線のチケットを買いに行ってきます、朝食はレンジで温め直して……か」


 手紙を読み終わると、書いてある通り、キッチンにあるレンジで冷めた朝食を温め直す。
 既に予約してあるだろうに、前日に受け取りに行くなんて雨らしい。
 でも、よくよく考えてみると、この時期は新幹線の窓口もかなり混むこととなる。雨の選択はきっと正しいのだろう。


「……でも、今日もすごい人混みだろうな。雨、大丈夫かな……」


 前に二人で行った夏の花火大会。その人混みはものすごく、次の日、雨が体調を崩してしまったことを私は覚えていた。
 心配になるほど、先程のやったことを更に悔やむ。


 あの時、追い出さずに……いや、部屋の外にちゃんと出て雨と話していれば付き添うことだってできたはずなのに!


 だが、いくら悔やんでも失った時間は戻らない。その事は嫌というほど知っている。
 レンジから甲高い音が鳴り、朝食が温まったことを告げた。


「帰ってきたらちゃんと謝らなきゃ……熱っ!」


 熱いことはわかっていたはずなのに、考え事に夢中になりすぎてそれを忘れていた。
 咄嗟にお皿から手を離してしまう。


「やばっ――」


 もう間に合わない。私はガラスが飛び散るのを覚悟して目を瞑ると――
 割れた音は聞こえずに違う音が聞こえた。
 遅れてゆっくりと目を開けると、床にはゴミ袋として使う丸められたビニール袋がいくつも転がっているのに気がつく。
 そして、その上には先程温めていたベーコンと目玉焼きのお皿が乗っかっていた。


「た……助かったぁ。雨にあれだけ言っておいて、今度は自分が割りましたなんて洒落にならないよ……」


 それにせっかく雨が作ってくれた料理。食べられなくなったなんてことになれば、それこそバチが当たる。


「信憑性はないけどー。なんちゃってね……ふふふ」


 横着にも服の袖を手先の辺りまで伸ばし、オーブンミトンを買うべきかなと思いながらも熱くなった朝食のお皿をダイニングテーブルへと持っていく。
 それから、散らばっていたビニール袋に感謝しながら、それを片付けるとようやく朝食の時間。


「今日は一緒にいないけど、雨。いただきます」


 私は手を合わせて、その朝食を頂いていくのだった。



 §



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