君のブレスが切れるまで
「流石にこれじゃもう……。大事な傘だったの?」
「いいえ、でも傘は大事に使っていたつもりだったから」
「そっかぁ……」


 そうは言うものの、かなり年季の入った傘だ。ここまで使ってもらえて、この子もさぞかし嬉しかったことだろう。
 私はその傘をいつも置いてある玄関の隅に立てかける。


「新しいのを買い直さないといけないわね」


 その言葉にプレゼントのことを思い出す。渡すなら今のタイミングしかないだろう。


「そ、そうだね……ほら、雨。寒いからリビングに行こうよ」
「ええ、少し冷えてしまったわ」


 私の言葉はぎこちない感じだったろうが雨は気に止めず、そのまま私たちはリビングへ。
 コートを脱いでいる雨を横目に、私は自分の部屋へと戻る。


 急がなきゃ、プレゼント……プレゼントっと。


 しっかりとギフトラッピングされた小さな袋を手に取り、ちょっと頼りないギフトラッピングをしている長いプレゼントは扉の横へ立てかける。
 雨には見えない位置、けれど自分からはすぐに取れる場所。
 小さなプレゼントを背中へと隠し、大きな声で、


「雨!」


 声をかける。
 テレビ近くのエアコン前にいた雨はすぐに振り向いてくれて、どうしたのかといった具合に首を傾げていた。


「あ、あのね!」


 また緊張が戻ってくる。いつも話している相手なのに、どうしてかこんな時だけすごく緊張する。


「奏、どうしたの?」


 そういうと、私の話をちゃんと聞く為か雨はダイニングテーブルの横。私の前まで来てくれる。


「あ……う……うん! その……雨にはいつもお世話ににゃ……なっているから!」


 言葉を噛んでしまって、更に心臓が跳ね上がる。さっきまで寒かったのに、今では燃えるような暑さ。


「そんなことないわ。奏だって、いつも良くしてくれているじゃない」


 無難な言葉が仇となる。私はブンブンと音がしそうなくらい首を振り、違うということを示した。
 今日はそんなんじゃないのだ。


「ち、違う、そういうのじゃない! いつもお世話になってるのは本当だけど、それとは違って、その……あ、雨にぷ、ぷぷ……プレゼントがあるの!」


 そう、大切な友人に受け取ってもらいたい大事なプレゼントがあるのだ。私は彼女へと近づくと、持っていた小さな袋を手渡した。


「これは?」
「日頃の感謝の気持ち……開けてみて」


 本当は違う。感謝の気持ちというようなものではない。ちゃんとした、私からのクリスマスプレゼントだったはず、ちゃんと言えてない。
 少しだけ私が俯いていると、雨は受け取ったそれを綺麗に開封し中身を取り出した。


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