君のブレスが切れるまで
「でも言ったからには有効だから、好きなことに使って?」
「う……うーん……じゃあ、もういじめられたくないとかは?」
「それは……ちょっと難しいわね」


 しまった。今度は困らせるつもりじゃなかったのに、唐突なことを言ってしまった自分に腹が立ってしまう。


「けれど、奏ならその内、いじめられたりしなくなると思うわ」
「うん……」


 雨、ありがとう。でも、そんな日はきっと来ないのはわかっている。だけど、慰めだとしてもそう言ってくれて私は嬉しかった。


「ごめんなさい、困らせてしまったかしら……」
「ううん、違うよ。でも、うん……してもらいたいこと、考えとく!」


 せっかくの旅行、暗い雰囲気にはしたくない。
 超人的なものや非科学的なものは無理として、多分、雨が私にできることなんて山程あるだろう。


 逆に私は? 私が雨にできることなんてあるのだろうか?


 このまま生きていても何もないのを知っていたから、あの時死のうと思った。それから雨に助けられて今もこうして生きているが、私に残ったのは白く霧のかかった未来だけ。
 やりたいことなんていうのは見つかりそうもない、こんな私でもいつかは見つけられる日が来るのかな。
 そんなことを考えていたら、雨が私の左手を握ってくれる。いつの間にか、サングラスを外していたみたいだ。
 今でもまだ赤みのある目、腫れもそこまで引いてはいない。


「私にできることがあれば、遠慮なく言って頂戴ね」
「もう……雨ってどこまで、私の考えが読めてるのかなぁ?」
「さっきの話の続きだったのだけど……」
「う……。さいですか…………」


 心を読まれてるわけじゃないと知って、私は顔を赤くしてしまう。
 とりあえず、次の駅に到着して新幹線の旅が一旦終わることになった。そこからはローカル線を乗り継いだり、バスに乗ったり、どんどん街の風景は田舎特有の田んぼや山が多くなっていった。


 朝に出かけたというのに、既に辺りは真っ暗。
 私は荷物の重さと日頃の運動不足でへとへとなのに対し、雨は疲労の『ひ』の文字すら見せない顔色だった。
 それどころか私のペースに合わせ、隣を歩いてくれている。


「奏、重いでしょう? 荷物、持つわ」
「もう四回目だって、その言葉……。雨だっていっぱい持ってるのに、そんなの……悪いよ」
「けれど……」
「もう少しなんでしょ、へーきへーき」


 とは言ったものの周りには街頭がほとんどなく、家というのもほとんど見当たらない。文字通り田んぼの平原だ。


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