君のブレスが切れるまで
「雨ってこんな不便なところに住んでたのー……?」
「いいえ、ここに帰るのは久しぶり。この間、話したと思うけど海外に行っていたりしたから」
「あ……そうだった……」


 じゃあ、どうしてここに帰るのさという疑問が生まれるが、雨のことを知るためだった。こんな辺鄙なところで、彼女の秘密がわかるとは到底思えないが。
 疲れ切ってもう前も向けない。それでもとにかく歩き続けていると、


「着いたわ」
「ふぇ……?」


 顔を上げてみると木々に隠れた、それはそれは大きな大豪邸。玄関前にはかなりの広さの庭、花壇には花が植えられているが、よく見えない。
 それにしてもこれほどまでのお屋敷だとは、想像していなかった。
 侵入が難しそうなくらいに高い門、私たちはその場所まで行くと雨がチャイムを鳴らした。


「私よ、開けてくれる?」
「これはお嬢様、お待ちしておりました」


 本当にお嬢様だったんだ。雨、すごい。
 私は今更ながら隣にいる彼女がすごい人なんだと感じ、なぜか緊張して固唾を飲み込んだ。
 その場で少し待っていると、屋敷の中から男性が一人こちらへとやってくるのが見える。


「久しぶりね総一朗(そういちろう)、元気だったかしら?」
「お久しゅうございます、お嬢様。私め如きにはもったいないお言葉、まだまだ現役でございます。そちらのお方は……」
「ええ、前に話していた私の友人。赤坂 奏よ」


 私は身の疲れを吹き飛ばし、体裁を整えると深々と頭を下げた。


「あっ、は、初めまして! 赤坂 奏と申します! えっと、雨さんとは親しくしてもらっていて、あの……その!」
「そうですか、貴女が奏様……お噂はかねがね」


 どういうことだろうとは思ったが、今現在私と雨は一緒に暮らしているのだから、彼女が話しているというのは考えるに容易かった。


「悪いけど、立ち話はそこまでで。慣れない長旅で、奏が疲れているの。総一郎、すぐに部屋を用意してくれるかしら」
「承知いたしました、直ちに」


 そういうと男性はお辞儀をして一足先に中へと戻っていく。雨もそれに続いていたが、私は二人の会話にまだ緊張したまま動けずにいた。


「……奏?」
「あ……あっ! ごめん、今行く!」


 雨の後を追おうとした時、門の前の表札が目に入る。
 その立派な表札には宮之城と書いてあったが、緊張が解けた今、ずっしりと背中にのしかかる疲労感で何も考えることができずに私は雨の後を追うのであった。
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