君のブレスが切れるまで
「あっ――」


 木の根に引っかかり、私はその場に転倒してしまう。


「あぅ……う……あれ……痛く……ない……」


 派手にコケたはずなのに擦りむいたりはしていない。落ち葉がクッションになってくれた影響のようだ。
 けれど、一度止まってしまったせいか私は立ち上がる意思も逃げる気力も失ってしまった。
 近くにある太い木まで這うように進むと、私はそれに背を預けた。


「……雨、ごめん……ごめんね……」


 膝を三角に折り、両腕を乗せ、私は顔を埋めるとめそめそと泣き始める。
 あの頃から私は何も変わってない。それどころか、大好きな友人まで傷つけてしまう暴挙に出た。彼女に甘えるだけ甘えてそんなことをしてしまう。
 雨の側にいる資格なんて持ってなかったはずなのに、雨は私に手を差し伸べてくれた。それが気まぐれだったとしても、過ごした日々は嘘じゃなかったはずなのに。私はそれを振り払ったんだ。


 風が強く吹いてくる。汗をかいてしまった体は急激に冷え、私の体温を奪っていく。
 確か6月にも、濡れた体に風が吹いて寒い思いをしたことがあったっけ。でも、その頃とは比べ物にならないくらい寒いや。
 季節は12月、もうすぐ寝る予定だったから服はパジャマのまま。外に出るような服装じゃない。


「このまま……凍死しちゃうのかな……そうなると、雨に迷惑かけちゃう……」


 寒い、すごく寒い。私はその場から立ち上がり、屋敷の方へと戻ろうと足を進める。でも、この暗闇じゃ方向がわからない。転倒したせいで、どこから来たのか掴めなくなってしまった。


「こっち……かな……でも、迷子になった時は動かないほうがいいって……」


 私は結局、その場に座り込んでしまう。


「雨……どうして雨は私なんかを……」


 いくら考えてもわからない。でも、あの傘に何か懐かしい感じがしたのは気のせいじゃなかった。きっと、何か……何かあったんだ。
 ゆっくりと瞼が閉じていく、なんだかとても気持ちよくなってきた。
 もう眠ってしまおう、眠ってる間だけは嫌なことは全部忘れちゃえるんだから。


 §


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