君のブレスが切れるまで
 心臓がおかしいくらいに高鳴り、私は肩を上下させつつ息を上げていた。
 大丈夫、すぐに顔を逸らしたから見られていないはず。今の状態を見られるわけにはいかない。彼女が何者であったとしても、こんなところを見られてしまえば何を言われるかわかったものじゃない。
 歩く。ひたすら歩く。男が何かを喋っているが、会話の内容が全く頭に入ってこない。


「――みちゃん、つぐみちゃん? そんなに急いでどうしたのさぁ」
「あっ……」


 ようやく言葉が頭に入ってくる。どうやら随分と早歩きになっていたようだ。


「話聞いてないみたいだしさぁ……そんなんじゃつぐみちゃんの方が困るんじゃない?」
「ご、ごめんなさい……気をつけます」


 私はそう言いつつも少しだけ後ろを振り返る。
 だが、フェンス越しにいたはずの人影は既になく、残っていたのは黒猫だけだった。
 黒猫は私の視線に気づくこともなく、何事もなかったように去っていく。まるでここには最初から誰もいなかったぞ、と言っているように。


 私の見間違いだったのだろうか? ……そんな訳がない、あれは確かにあの――
 女の子だったと続ける前に、意識を違う方へと向ける。


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