君のブレスが切れるまで
 路地裏に着くと私は掴まれた腕を勢いよく前に投げ出され、地べたへと転んだ。
 擦りむいてしまったのか、生身の膝が痛い。きっと、これも少し長引く痛さ。それに追い打ちを掛けるよう、強い雨と地面の水たまりは私の全身を濡らしていく。
 辺りを見回すと、逃げ場のない袋小路。ここに来るまでも目は動かしていたけど、人なんてほとんど通ってなかった。いや、元はといえば、私があの男から逃げるために人通りの少ない場所へと勝手に移動していたのだ。


 馬鹿だ、逃げるためなら人が多い場所の方がよかったはずなのに。でも、こんなずぶ濡れのまま、そんな場所に出てどうすればよかったの。


 どっち付かずの考えばかりが浮かんでくる。いくら悔やんだとしても、もう遅いのに。


「さっきのおっさんから金貰ったんでしょ? 寄越しなよ」


 リーダー格であろう、確か『あやか』と呼ばれていた女が私に言う。
 抵抗なんてできるはずがない。座り込んだまま、握っていた濡れた一万円を差し出した。
 あやかは私の手からそれを奪い取ると、くしゃくしゃになったお札を開き、またもこちらへと目を向け、苛立ったかのような声で聞いてくる。それに少し遅れ、他の二人も。


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