君のブレスが切れるまで
「あれ……おかしいな……死にたいのに……足が……」


 足が(すく)む。踏み出せば全てが終わるのに、なんで動かないんだろう。どうしてこんなに体が震えるんだろう。


 せっかくここまで来たんだよ? なんで急に怯えてるの? 死にたいって思ってたんでしょ? 実際に死なないと、私は本当の意味で助からないんだよ。お願い、動いてよ……私の体。


 息が上がる、心拍数もさっきよりかなり上がっているだろう。雨でこんなに濡れているはずなのに寒さを感じない、それくらい体が異常な熱さを保っている。


 夜の冷たい空気を吸い、そして吐く。もう一度、吸う。そして――


 覚悟を決める。


 恐怖を最小限に押さえるため、私は目を瞑った。
 すると自然と体の震えが収まっていく気がする、気がするだけなのかもしれない。けど――


 行ける。


 空を飛ぶように一歩、前に踏み出せばいい。
 私は手を広げ、イメージする。この暗い雲を突き破ってあの星空を飛ぶのだと。


「行く……よ」


 その言葉の後、私はゆっくりと足を上げ、最後の一歩を踏み出した。


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