君のブレスが切れるまで
 足を冷やしてもらった後、友達でもない私を置いて彼女はお風呂に行ってしまった。変に信頼されているのか、危機感を持っていないのか不安になる。
 その間、この家から逃げようかと思ったりしなかったわけではない。でも、行くところもないのに、逃げても仕方ないのはわかっていた。


 だけど、もし逃げていたら……。


 彼女がお風呂から戻ってきた時にそう聞いてみると、『信じていたから』たったそれだけを答えてくれた。


 それはきっと、私が望んでいた言葉だったのかもしれない。
 よくある『逃げるという選択肢もあったけど、お前はここにいただろ?』とか、そんな押し付けるようなセリフじゃなくて、信じてるって言葉が何となく、ほんのちょっとだけ嬉しかった。


 でも、なぜか胸が痛くて泣きそうになる。


 そんな私を、彼女は布団へと寝かせてくれた。
 疲れていたのだろう、布団の優しい香りに包まれるとすぐに瞼が重くなる。そんな私の枕元、彼女は座ってくれていた。


 ふと、私は自分の名前をちゃんと伝えられてなかったことに気がつく。


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