君のブレスが切れるまで
「あ……めが、ちゃんと学校行くなら奏って呼んでもいい」


 なんで素直に言えないかな、私は……。
 体がもっと熱くなってきてるのは、きっと熱のせいじゃない。自分に腹が立つからだろう。彼女は何も言わないまま、だけど少しすると諦めたように言ってくれる。


「わかったわ、奏。その代わり――」


 私は布団の中で振り返り、女の子の姿を見る。すると彼女は机の上にある紙をちぎり、何かを書いて、それを渡してきた。


「何かあったらこの番号へすぐに連絡して。いつでも取れるようにしておくし、すぐに帰ってくるわ」
「……過保護すぎないかな」


 なんだか母親のことを思い出して、少しだけ悲しくなる。別に過保護なわけじゃなかったけど、思い当たるのが死んだ母親ってだけ。会いたいわけじゃないけど、なんとなく思い出して悲しくなった。
 いい思い出よりも、嫌な思い出の方が多いのに。


「……部屋にあるものは好きに使って、飲み物はペットボトルのお茶とスポーツドリンク。ご飯はコンビニ食で悪いけれど、机の上に軽いもの。昼休みにも何か買って、一度帰ってくるわ」


 そう言って彼女は枕元にスポーツドリンクを置いてくれる。机の上には食事用にお茶と、食べるものは……ここからじゃ見えない。


「別に一日くらい採らないでも平気だから、さっさと行ってよ」


 他人の部屋なのにこの言い草。いつからこんなに性格が歪んでしまったんだろう。けど、彼女は嫌な顔ひとつしなかった。無表情だから本当はどうかわからないんだけど。


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