君のブレスが切れるまで
 その番号の主を思い出して、私の手からスマホが離れてしまう。
 ゴトっという音と共に、転がる電話。すぐに恐怖を煽る着信音が鳴った。


「い……いや。もうやだ……」


 私は耳を塞ぎ、その着信音を頭へいれないようにする。メールにあったあの電話番号は叔父のものだ。
 今かけてきてるのは叔父かもしれない。私の電話番号は雨に教えていなくて、かけてくるとすればあの三人の女学生か叔父しかいない。どちらにせよ、嫌な相手というのは変わりない。
 しばらく部屋に鳴り響くスマホの着信音。いつからかこの音は私のトラウマになり、その度に音を変えても、変えた音は次々とトラウマになる。そして、いつしか変えるのを諦めてしまった。


 耳を押さえて数分、音はいつの間にか止まっていた。だけど、電源を入れたというのは、あちらにも気づかれてしまっている。


「…………帰らなきゃ、今のうちに帰って謝れば……」


 殴られずに済む? そんなわけがない。どちらにせよ、殴られるのは決まっている。
 だけど、これ以上遅くなって、さらに酷くなるよりはマシかもしれない。殴り殺されるなら、それでもいいけど……生かさず殺さずが一番辛い。痛みだけがずっと残るよりも、いっそのこと、楽にしてほしいのに。


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