君のブレスが切れるまで
 急に雨の顔が思い浮かぶ。私は震えながらスマホを手に取ると先程の着信履歴を見ないで、彼女の電話番号を入力していた。


 これで……これで全部、後は通話ボタンを押すだけ。
 だけど通話ボタンを押す寸前で、指が止まる。そして自分に怒りが湧いてくる。


「あの子が何をしてくれるって言うのよ……いい加減に目を覚ませ! 誰も救ってなんかくれないんだよ!」


 自分でもびっくりするほどの声、それも怒声と言っていいくらいの。
 その怒りに任せたまま、私はスマホを壁に叩きつけようと振りかぶった。
 けれど、


「っ……もう……なんで……なんでよ……」


 手から、スマホが離れない。
 掲げたままの右腕を左手で掴み、ゆっくりと下ろしていく。


 わかんない、わかんないんだよ。あの子が……雨が何をしたいのか。だから、もう……。


 きっと無意識だった。私が自分じゃないような感覚、自分の上から私が見下ろしているような不思議な感覚に陥った。
 下の私は助けを乞うようにスマホを耳に当てていて、見下ろしている私の中にも、そのコール音が響き渡ってくる。プツと音が途切れると、知っている女の子の声が流れ込んできた。


『もしもし』


 きっとあの子は許してなんかくれない。見下ろしてる上の私も、電話をかけてる下の私もわかってる。けど、言ってしまうの。
 喉から懇願するような、悲鳴のような小さな声で。


「ねぇ……雨。私を殺して……?」


 また外の雨音が強くなる。
 もうずっと止まないのかもしれない。それはなんだかずっと晴れない私の心を映しているようで、とても嫌だった。


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