君のブレスが切れるまで
 §


 しばらくすれば、二つに分かれた私の変な感覚は収まる。この感覚はよく殴られるときに陥っていた気がする。
 多分、辛い時に自分の心を切り離して傍観していたのかもしれない、そうしないと心が保てなかったんだ。
 雨との電話を切って何分経っただろう。スマホは既に電源を落としている。次に雨が電話をかけてくるよりも、叔父がかけてくる可能性の方が大きいのは知っていたから。それに、雨はすぐに帰ると告げてくれた。
 私は部屋の片隅で(うずくま) って、ひたすらに時間がすぎるのを待っている。


 ガチャリという音が聞こえ、私は肩を跳ねさせた。急に鳴る音はやっぱり怖い。


 彼女が帰ってきたのか、リビング扉のガラスから陽の光が差すのが見える。そして、その扉が開かれた時、私は驚きを隠すことができなかった。


「ただいま。奏」
「雨……どうしたの……その姿……」


 綺麗に整えられたはずの長い黒髪はぼさぼさになって、無表情な顔の白い頬は、若干赤く腫れていた。口の中も切っているのか、端から乾いた血が糸のように顎の辺りまで、滴っているのが見える。


「三人組にやられたの、昨日の仕返しかしらね」


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