君のブレスが切れるまで
 私の目線に気付いたのか、彼女は袖で口を拭きながら言っていた。
 その言葉に罪悪感を覚える。私のせいで雨にまで矛先が向けられてしまったのか。


 それじゃ私が死んだら、雨がその代わりを務めることになってしまうの?


 別に死んだ後、この世界のことなんてどうでもいい。でも、この子がそういう風な目に合うと考えたら、もう殺してなんて言葉の理由が言えなくなってしまった。
 私は三角に折った膝を抱え、顔を押し付ける。
 言いたい、けど言えない。雨と関わってしまったばかりに、こんな言いようのない気持ちに押しつぶされそうになっている。こんなはずじゃ、なかったのに……。
 これ以上、迷惑はかけられない。私は顔を隠したまま、声を絞り出す。


「私のことはいい。それよりも――」
「雨……私、家に帰りたい」


 彼女の言葉を遮ってしまう。
 けど、これでいい。殺してなんて今はもう言えないんだから。
 本当は帰りたくなんかない。でも帰らなきゃいけないの、気付いて……この気持ちに。
 少しだけ彼女の方を見る。雨の瞳を見ても、やっぱり何を考えているかわからない。彼女は少しだけ黙った後に、ゆっくりと答えてくれた。


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