政略結婚から始まる蜜愛夫婦~俺様御曹司は許嫁への一途な愛を惜しまない~
 零士君はチラチラと私の様子を窺う。

 やめてほしい、これ以上惨めな思いをさせられたら泣いてしまいそう。

「本当に大丈夫」

 必死に涙をこらえて言うと、笹野さんは零士君に話しを続ける。

 笹野さんの話に耳を傾けながらも、零士君は時折私の様子を窺う。

 そのたびに笑顔で平気なフリを続ける私の心は、醜い感情で覆われていく。

 どうして零士君と笹野さんが話しているところを見るだけで、こんなにイライラするんだろう。

 彼が笹野さんのことを『綾子』と呼ぶたびに胸が痛んで、泣きそうになる。

 この場に私がいないかのように、仕事の話で盛り上がるふたりを見ていると、惨めで仕方がない。

 こんな感情を抱くのは初めて。

 もうだめだ、私。一度気づいた気持ちは大きく膨れ上がり、零士君のことが好きでたまらなくなっている。

 こんなにも嫉妬と独占欲で、醜い感情を抱くほどに――。
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