政略結婚から始まる蜜愛夫婦~俺様御曹司は許嫁への一途な愛を惜しまない~
 後を追うと、零士君は私にベッドに腰かけるよう促す。

「ほら、早く乾かさないと風邪を引くぞ」

「……うん」

 言われるがまま腰かけると、零士君は私の背後に回り、髪を乾かし始めた。

 美容師さんに髪を乾かしてもらう時はなんとも思わないのに、相手が零士君だと緊張する。

 手つきもぎこちなくて、それがくすぐったくてたまらない。でも嫌じゃない。不思議と心地よい。

 複雑な気持ちに悩まされていると、零士君が口を開いた。

「そんなに緊張しないでくれ。悲しくなるだろ?」

「えっ? いや、その……」

 どうやら私の緊張は、零士君に伝わっていたようだ。

「よし、終わったよ」

「ありがとう」

 コンセントを抜いて、ドライヤーをベッドサイドに置くと、零士君はうしろから私を抱きしめた。

「れっ、零士君?」

 突然の抱擁に戸惑いを隠せない。バクバクとうるさい心臓。すると零士君はクスリと笑った。

「だからそんなに緊張しないでくれって。……大丈夫、なにもしないから」

「――え」
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