溺愛予告~御曹司の告白躱します~
家に帰って、ごはん食べて、ちゃんと寝て。
それから今日のことを考えよう。
土曜と日曜の二日あれば、少しはマシな考えが浮かぶかもしれない。
これは敵前逃亡ではない。
いわゆる戦略的撤退なのである。
定時の十五分前には帰る支度をバッチリ整え、トイレも済ませ、チャイムが鳴ったと同時にパソコンをシャットダウンして席を立ったというのに。
「お前の考えてることくらい分かるって言ったろ?」
なぜか勝ち誇った顔の水瀬が営業課のデスクまで迎えに来るという暴挙に出たせいで逃げ遅れ、今現在ふかふかのソファで二人でコーヒーを飲んでいる。
「佐倉」
無言で半分くらいコーヒーを飲み終えたところで水瀬が口を開いた。
何を言われるのかわからなくて心臓が痛いけど、この沈黙の空間にそろそろ耐えられなかったから話しかけてくれて助かった気もする。
「付き合おう」
またもノーガードで水瀬を見てしまっていたせいで、無駄にキラキラしたイケメン王子の視線が凶器のように心に突き刺さる。
借りてきた猫状態の私は、その言葉でさらに縮こまった。
「何が問題?嫉妬なんて誰にもしなくていいくらい佐倉しか見てない。元カノの連絡先も知らないし、スマホから女の連絡先は全部消したっていい」
「水瀬…」
「それでお前が安心するなら。…お前が手に入るなら」
「なんで…私なんかに、そんな…」
駐車場で私が喚いた懸念事項を一つずつ潰していくように安心材料を提示してくれる。