溺愛予告~御曹司の告白躱します~
それを手放したくないと思っていた。
心の奥底にいつからか芽生えていた感情を見ないふりをして、仲の良い同期としての距離感をずっと保ってきた。
だから壊したくない。
ふと昨夜のドヤ顔をしたパンダを思い出した。
目の前の男を見上げつつ、脇腹に軽くグーパンチをお見舞いする。
「痛って!なんだよ」
「…顔にイラっときたから」
「はぁ?」
「顔にイラッときた」
「二回言わんでいい」
くだらないやり取りをしている私たちを見て、爽くんが笑う。
「仲良いっすね」
「まぁ」
「同期ならどこもこんな感じじゃない?ほら、行くよ」
ところがやってきたエレベーターはほとんど満員で一人しか乗れなさそうだった。
「蓮兄先いいよ」
「いや、急いでないから。お前先行って車回してきたら」
「じゃあそうする。莉子先輩、正面で待ってて下さいね」
爽くんを乗せたぎゅうぎゅうの箱が閉まり、エレベーターホールには私と水瀬のふたりきり。
あのパンダを思い出して殴ってはみたものの、メッセージの内容が内容なだけにあまり話題にはしたくない。
来週わざわざ時間があるかと確認してまでしたい話とやらを、今ここで聞くわけにはいかないのだから。