溺愛予告~御曹司の告白躱します~
「佐倉」
「うん?」
「俺だったら?」
何が『俺だったら?』なのかわからずに隣に立っている水瀬を見上げる。
「俺が部屋に行ったら?ピンポンしたら出てくれんの?」
「へ?」
突拍子もない質問に答えよりもまず疑問が浮かぶ。
「いや、なんで?」
「気心知れてる同期だからって部屋に上げるのか、警戒して上げないのか気になったから」
第一水瀬がうちに来るというシチュエーションがまずありえないけど。
何を思ってその質問を投げてきたのか、まったく謎過ぎて何を考えているのかわからない。
もし水瀬がうちに来たとしたら…。
狭い八畳しかないワンルーム。近い距離に逃げ場がなくて心臓が爆発してしまうに違いない。
「…上げないよ」
見上げていた視線を逸しながら答えると、頭上からフッと笑った気配がした。
「それで正解。他の男も絶対部屋に上げるなよ」
頭をぽんぽんと軽く叩かれ、振り払うことも出来ずにされるがまま。
あっという間に五階に付き「じゃあな」と手を挙げる水瀬を半ば呆然としながら「頑張って」と送り出す。
一体今のは何だったの?
私はひとり取り残されたエレベーターの中で頭を抱えた。
ただの世間話?
防犯意識が低そうだという私に忠告?
いつかも駅から家が遠いと話したら過保護な父親みたいな心配してたし、きっと水瀬は心配性なんだろう。
うん、きっとそう。
無理やり結論付けて何度もひとりで頷くと、仕事の頭に切り替えようと気合いを入れるために両頬をぺちっと叩いた。