溺愛予告~御曹司の告白躱します~
最寄り駅からマンションへ歩いている途中、一組のカップルが仲睦まじそうに腕を組んで歩いている姿を見かけた。
あんな風にいかにもラブラブな感じで外を歩いたのっていつだったかな。
そう考えてあんまり見るのも失礼だと視線を逸らそうとしたのに、私は目を見張ったまま固まって動けなくなってしまった。
九月第一週の夕方六時はまだそこまで暗くない。
何度まばたきをしてみても、カップルの男性の方は私の彼氏である彰人で間違いない。
ふたりは私に気付くことなく笑顔で会話をしながらマンションのエントランスへ消えていった。
彼は一人っ子で姉妹はいない。
そもそも家族や親戚との距離感ではなかった。
その子は、だれ……?
今日が何の日か…覚えてないの……?
使い慣れない合鍵を持っていようと、そのままマンションに突入する勇気は持ち合わせていなかった。
もし私の予想が当たっていたら…。
今考えれば馬鹿みたいだと思うけど、当時の私はあの現場を見てもまだ彰人の浮気を受け入れたくなくて。
そのままくるりと来た道を引き返す。
電車に乗り、会社の最寄り駅に着くと、行き慣れた居酒屋の扉を勢いよく開けた。
「あれー?莉子?」
「おぉ、佐倉来たんか」
店の一番奥の座敷を陣取っていた我が同期会は既に始まっていて、私に気付いた何人かが声を掛けてくれる。