溺愛予告~御曹司の告白躱します~

「見た目も頭脳も大人なんだから、女の子と腕組んで部屋に入っていったら…することもひとつ…」

ぼそっと言った私の呟きに、水瀬はジョッキを置き、切れ長の目を大きく見開いて私を見る。

ひとつの真実とやらに気付いた水瀬はグッと眉間に皺を寄せ、「とりあえず飲め」と半分残っていたレモンサワーを私に持たせた。


その後、お酒を飲みながらぽつぽつと彰人との事を話す私に嫌な顔ひとつしないで、ずっと聞き役に徹してくれていた水瀬。

一年目は違う現場の事務所に配属されていたから、とんでもない初対面以降同期会以外では全く接点がなかった。
それが二年目から同じ営業課になってよく話すようになり、この彰人の浮気騒動をきっかけにふたりでも飲みに行くようになった私たち。

あんな現場を見ておきながら、私は自分から彰人に別れを切り出したりはしなかった。

もしかしたらただの友達かもしれない。
そんな紙切れよりも薄い期待を捨てられず、半ば意地で付き合いを続けていた。

きっとあの時、既に彰人への気持ちはほとんど残っていなかった。
仕事に夢中で、何ヶ月か会えなくても寂しいと思う気持ちも薄れていた。

それでも会っている間の会話の中に、マンションの部屋に、彼の仕草に、他の女性の影がないか気になってしまう。

矛盾してるし馬鹿みたいだと自分でも思う。

既に大して好きでもない人の気持ちを引き止めるために、今まで以上に良い彼女を演じた。
仕事でもなかなか成果が出なかったあの頃、彼氏にまで価値がないと切り捨てられるのは耐えられなかったから。

結果、私は仕事と恋愛を両立させようと躍起になるあまり、職場で倒れて同僚に迷惑を掛けた。


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