溺愛予告~御曹司の告白躱します~

水瀬の私を見つめる視線に甘さが交じるようになったのはいつからだっただろう。

気付いたきっかけとなった会話を思い出す。
あれは確か彰人と別れてすぐの飲み会の席だったと思う。

『そういや自転車買った?』
『満場一致で否決された』
『何で?』

『俺の一票はどこいった』と不服そうな顔をした水瀬が『送っていく』と私の最寄り駅まで来ようとした時、初めて違和感を感じた。

『え?いいよ』
『いいから。この前聞いてビビったわ。遠すぎだろ』
『遠くないよ。おにぎり二個とチキン食べてお茶飲み干したら着くよ』
『帰り道で夕食済ませてんじゃねぇ。だから倒れるんだろ。大体食べ歩きとか行儀悪ぃ』
『お母さんか』
『産んだ覚えはねぇ。いいから送ってく』

そのあとも『いらない』『送ってく』の押し問答は続き、結局無事に家に着いたらメッセージを送るという謎の着地点で合意を得た。

家に着き【今家に着いたよ】と送ると、即既読がつき【了解】と短く返ってきた。

それだけのメッセージのやり取りがなんとも照れくさく、据わりが悪い感情に支配される。

今までそんなことはなかったのに。
どれだけ遅くなっても『気をつけて帰れよ』くらいだったはず。水瀬に限らず、こんなに過保護にされた覚えは一度もない。

それが言外に『心配だ』とひしひしと伝わってきて落ち着かない。

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