溺愛予告~御曹司の告白躱します~
緊迫しているのかバカバカしいのかわからない言い合いをしていると、橋本くんが『お前ら相変わらず仲良いなぁ』と私たちの間にジョッキを持って割って入ってきた。
水瀬は明らかに嫌な顔をしていたけど、私は拝みたくなるほどタイミングの良い橋本くんに感謝した。
そのまま都市開発の企画の話になり、他の住宅建築部の同期も興味があるのかその輪に何人かが加わって、私は自然に水瀬の隣から移動することが出来た。
少し離れた所にいた総務部の亜美や経理部の理沙のところへ行く。
この二人とはインターンから親しくしていて、私に『水瀬帝国の王子』の話を聞かせてくれた張本人達。
二人共入社当時こそ水瀬にキャーキャー言ってたみたいだけど、今はそれぞれ彼氏と幸せそうにしている。
近況だけさらっと話した所で、明日早くに出社する予定があると嘘をついて理沙に会費を託し、まだお開きには遠そうな同期会を抜けた。
いつも隣りに座ってる水瀬に何も言わずに帰るのが後ろめたくないわけじゃなかった。
でもこのままここにいたら、聞きたくない何かを聞いてしまうんじゃないかって怖かった。
だから、一人でこっそり帰ってしまった。
その結果【マジで話があるんだけど】と逃げられないメッセージとパンダが夜のうちに届き、有無を言わさず食事のアポを取り付けられ、いよいよ今日その約束の時がきてしまった。
作った資料を保存し、パソコンをシャットダウンする。
持ち帰るほど仕事が溜まっているわけでもないので、出力した資料はデスクに入れて鍵をかけておく。
エントランスで長く水瀬を待たせるわけにはいかない。逃げたと勘違いされ営業課に迎えになんて来られたら困ってしまう。
私は大きく息を吐き出し腹を決めると、簡単に化粧直しをしてから行こうとトイレへ向かって歩き出した。