溺愛予告~御曹司の告白躱します~

人と会う仕事なだけに、忙しいからと身だしなみに手を抜くわけにはいかない。
朝は家を出る一時間半前には起きてしっかりメイクをする。

最近パッケージに惹かれて買ったリュミエールの新作の赤いリップに合わせて、目元やチークは少し控えめに色を乗せる。

社会人も四年目になるのに未だに新卒に見られてしまうのは、業種的に年配の男性が多いせいなのか私が童顔なのか。

少しでも年相応に見られるようにアイラインを休日よりもキツめにいれるのが私のオフィススタイル。

髪は暗めのブラウンに染めたセミロングの髪を毛先だけ巻き、耳より少しだけ高い位置で無造作にひとつで結びトップを引き出す。

九月下旬にしては少し肌寒い今日はジャケットを羽織ろうと決め、インナーには合わせやすい七分袖の白いブラウスに薄いグレーの細身なテーパードパンツを合わせた。

玄関の姿見で全身を確認した後、デザインよりも履き心地を重視したシンプルな黒いパンプスを履いて家を出た。


マンションから最寄りの駅までは、どれだけ早足で歩いても十五分はかかる。
真夏の暑い日や、冬の冷たい雪の日、オールシーズン雨の日なんかも失敗したと感じる日は少なくないけど。

それでも私が払える賃料で築浅、三階以上でオートロック、さらにトイレとバスは別で洗面所も欲しいと欲張った条件を満たすには、朝晩往復三十分以上歩く以外に方法はなかった。


いつかの同期会でその話をしたら、なぜかげんなりした顔の水瀬は眉間に皺を寄せた。

駅から家までの間にコンビニはあるのか、終電まで人通りはあるのか、街灯はついているのかなど、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる様子はまるで箱入り娘が初めて一人暮らしをするのを心配する父親のよう。

そんな私たちのやり取りを、同期の橋本くんは可笑しそうに見ていた。

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