溺愛予告~御曹司の告白躱します~
「あの、ターゲットって言ってもね。『次は莉子先輩にします』って無邪気に言われただけで何もされてないし、そもそも噂が本当なら私はターゲットの条件に当てはまらないし。ただ単に教育担当の私をからかってるだけだろうから大丈夫」
特に誘われることもなければ、やたら触れてきたりすることもない。
だから私としてはただのおふざけだと思ってスルーしているんだけど。水瀬にとってはそんな軽いことではないらしい。
「なんでそんな無防備なの。爽の勝率なんて全く興味もないけど、相手が落ちなかった話なんか聞いたことない」
「それは…まぁ、確かに」
別れる時のいざこざはよく耳にするけれど、落ちなかった女の子の話は聞いたことがない。
凄いな、爽くん。打率百パーってこと?
爽くんが本気で落としにかかれば無敵かもしれない。
あの王子様のようなルックスに、女の子を退屈させない巧みな話術と母性本能をくすぐるちょっとした可愛らしさ。加えて気も利くときてる。
前回かけた営業が思わしくない相手先にもう一度訪問するのはかなりの緊張を強いられる。
そんな時にさりげなく声を掛けてくれていた水瀬が企画に異動してしまい、朝から指先が冷たくなっていた時。
『莉子先輩、これでよかったですよね』
そう言っていつも私が飲んでいるココアをわざわざ下のフロアの自販機まで買いに行ってくれたのは、爽くんが営業課にきてから二週間目の時だった。
あぁこりゃモテるわとひとり納得して頷いた私の手の震えは収まっていて、『ボンクラの第一王子』という失礼な先入観を捨て去ったのもこの頃。