溺愛予告~御曹司の告白躱します~

『水瀬ってクールなくせに佐倉には構うよな』
『ほっとくととんでもないことしでかしそうだろ』
『ちょっと。失礼じゃない?』
『佐倉もさぁ、他の女子なら水瀬王子に構われたらもっと嬉しそうにすると思うのに。お前は全然だよな』

橋本くんのストレートな言葉にドキリとしつつ、それを顔には出さないで笑ってみせた。

『構い方が王子ってより親父でしょ。子供じゃあるまいし十五分くらい歩けるよ』
『…そこじゃねぇだろ。子供じゃねぇから言ってんだよ』
『あはは!佐倉にかかれば水瀬も過保護な親父かよ』
『誰が親父だ』

水瀬はケラケラ笑う橋本くんと私に不貞腐れながら律儀にツッコミを入れ、最終的には一言『自転車買えよ』と渋い顔をして呟いた。

それもいいかもと検討はしてみたものの、結局歩くのが嫌になる雨の日は自転車を使えないのと、駅の月極の駐輪場代だってばかにならないため、この自転車購入案は脳内議決の結果、満場一致で否決された。



「おはようございます、莉子先輩」

デスクに着いてお気に入りのココアを飲みながらメールのチェックをしていると、二年後輩の水瀬爽くんに声を掛けられた。

「おはよう。…どしたの、その顔」

百八十センチ近くはあるんじゃないかという長身に、アイドルのような甘めな顔立ち。
営業職には多少長めな茶色の髪は、清潔感を保つようにワックスで緩めに固められている。
シャープな輪郭の横顔は、頬の下の方が少し赤く腫れていて小さな引っかき傷もある。

< 5 / 178 >

この作品をシェア

pagetop