溺愛予告~御曹司の告白躱します~
「昨夜ちょっと。聞き分けのないやんちゃな猫にやられちゃいまして」
「…うかつに手を出すから」
案の定な理由に私はそれ以上深く聞くこともなく、彼も今は特にこれ以上話そうとはせずに自分のデスクに腰を下ろした。
彼、水瀬爽ももちろんこの会社の一族であり、現社長の息子で次期社長と言われている。水瀬帝国の第一王子という立場。
私の同期である水瀬蓮の従弟にあたる。
水瀬や他の社員と同様、一年目は新人教育として現場の事務所で運営業務に携わり、二年目からはここ建築事業部の営業課に配属となった。
フロアの隅にある共用の冷蔵庫の一番下の冷凍室から保冷剤をひとつ取り出しデスクへ戻る。
カバンに入れていた自分のハンカチで保冷剤をくるむと、すでに自席でパソコンを立ち上げている水瀬くんに渡した。
「ちゃんと冷やして。じゃないとしんちゃんみたいな輪郭になるよ」
「ありがと、先輩。あの幼稚園児の奔放さ羨ましいですよねぇ。俺も莉子先輩にオネイサ~ンって甘えたいなぁ」
「オラ天才だぞってお尻出してフロア駆け回ってくれるならいいよ」
「…ヒドイ。慰めてくれないんですか」
四月に営業に来た彼の教育係をなぜか私が任され早半年、どういうわけか第一王子に懐かれている。
水瀬くんがここに配属になる前に『悪い奴じゃないが女癖だけは最悪だから気を付けろ』と、彼にとっては従兄の立場にあたる同期の水瀬から飲み会の席で聞いていたため、どんなボンクラ王子が来るのかと思いきや。
若干チャラそうな印象はあるものの、礼儀はしっかりしているし仕事の飲み込みも早い。おまけに小さなことにまで気が利く。