純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
錆びついた歯車を動かすくらいの力が自分にあったのだとすれば、茨たちが言っていたように、時雨はただ家族が欲しくて結婚したわけではないのだろうと睡は思う。
嬉しさが込み上げると同時に、決して心地悪くはない胸の苦しさを感じて、睡は身体をひねって時雨のほうに顔を向ける。
「時雨さんが私を娶ったこと、後悔させたくありません」
〝結婚しなければよかった〟と思ってほしくないし、失望されたくもない。
そのためにどうすればいいのか、具体的にはまだわからないけれど、確かにあるこの気持ちを伝えたくて口にしていた。
一瞬目を見張った時雨は、睡の身体を自分に向き合わせ、さらにしっかりと抱きしめる。
「後悔しないし、俺もさせないから、心配するな」
温情に溢れた声にも包まれ、大きな安心感を抱いた睡は、彼の浴衣の衿をきゅっと掴んで瞼を閉じる。
身体が交わることはなくても夫婦としての契りを結べたような、優しく甘やかな初夜だった。