純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
恋慕再来
約二週間後、睡は肩の部分や裾にひだがついた白いエプロンを着物の上につけ、香ばしい香りに満ちた喫茶店で食器を運んでいた。
コーヒーや軽食を提供する、ここ〝喫茶ヱモリ〟は夫婦ふたりで営んでおり、知る人ぞ知る小さな店である。
九重家から近いため時雨も度々利用しており、夫婦の人のよさは十分にわかっているので、ここなら睡も安心して働けるのではないかと紹介されたのだ。
店が繁盛してきてふたりで回すのはぎりぎりの状態だったらしく、睡は快く迎えてもらえた。働き始めて十日になり、花魁とはまったく勝手が違うがなんとか仕事も覚えてきたところだ。
五十代の江森夫妻には子供がいないため、睡を娘のように思い、すでに家族のように馴染んでいる。ここでも人の温かさに触れ、彼女は充実した日々を過ごしている。
昼時の店内でテーブルを拭いてカウンターの奥に入ると、店主の妻である有美がハムや野菜が挟まれた三角形のパンを乗せた皿を差し出してくる。
「睡ちゃん、これ窓際のテーブルのお客さんに運んでくれる?」
「はい」
元気に返事をした睡は、皿を受け取ってホールに戻る。