純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
悪態をつく有美に、男性は笑顔を引きつらせた。こういうやり取りは日常茶飯事なので、周りの客もおかしそうに笑っている。
料理の美味しさだけでなく、有美の江戸っ子のような性格がヱモリのひとつの名物でもある。どことなく藤浪楼の女将と似ていて、睡はすぐに慕うようになった。
そんな彼女は、睡に申し訳なさそうな顔で謝る。
「ごめんね、睡ちゃん。気を悪くしないでおくれよ」
「全然、大丈夫です。すごく楽しいです」
首を横に振る睡の言葉は本心だ。吉原にいた頃から男性の接客には慣れているが、方法はまるで違うし客と気軽に話せるのがとても楽しい。
まったく嫌そうではない睡に、有美は安堵した様子で「そっか」と言い、表情を緩めて続ける。
「まあ、たとえ睡ちゃん目当てでも客が増えるのはいいことだけどね」
「まんざらでもないんじゃ……」
「あぁん?」
ぼそっと茶々を入れた先ほどの男性客に有美がガンを飛ばすと、彼はしゃきっと背を伸ばして「いや、なんでも!」とごまかした。息の合ったやり取りに、睡は呑気に笑っていた。