純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
ヱモリに戻ってくると、いつもより少し豪華なまかないがふたりに用意されていて、それも兼聡と一緒に食べた。
食事を終えて帰る彼を、睡は今日一日付き合ってくれた感謝を込めて店先で見送りする。
「今日は本当にありがとうございました。四片と話ができたのも、兼聡さんのおかげです」
「いや、俺も楽しかったんで」
自然に口角を上げた兼聡だが、すぐに表情を引きしめる。なんだか改まった様子で、睡の正面に向き直った。
「俺、これからもここへ来ます。睡さんに会いに」
ヱモリの料理だけでなく自分に会うのも楽しみにしてくれているようで、素直に嬉しい。
宣言しなくてもどんどん来てくれて構わないのに律儀だなと思いつつ、睡は「待ってます」と笑顔を返した。
それからはいつも通り店内での仕事をこなし、上がる時間の午後五時を迎えようとしていた。
ヱモリは昼間のみの営業で、昼食を出し終えたあとは江森夫妻が翌日の仕込みをする中、睡は掃除をしている。この日もすべてのテーブルを綺麗に拭き、床を磨いていた。
そのとき、営業時間外にもかかわらず店のドアが勢いよく開き、意外な人物が姿を現した。