純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
極上契約
クリスマスを数日後に控えたある日、時雨は取引先の呉服屋へ出向いていた。
心英社の機械紡績で生産した糸は、夏用の着物に最適な通気性や速乾性に優れた生地を作り上げられる。木綿は絹に比べると安価なので、日常用の着物にもよく使われる。
贔屓にしてくれているこの呉服屋には、生地の仕上がりを確認したり新しい製品や要望などを話し合ったりするために度々訪れるのだ。
今日も三代目当主である富井と話をしている。年は時雨のひとつ下で、好色な美青年だと密やかに囁かれているが、性格も手腕も決して悪くない男だ。だからこそ女性に人気があるのだろう。
仕事関係の話がまとまったところで、ふいに富井が切り出す。
「そういえば九重さん、ご結婚されたんですよね。おめでとうございます」
端整な顔に和やかな笑みを浮かべる彼に、時雨も唇を弓なりにして「ありがとうございます」と頭を下げた。
二週間ほど前に社の皆に報告していたのだが、外部にもすでに広まっているようで、その早さには若干呆れてしまう。
富井は台の上に広げた数種類の美しい生地を片づけつつ、なにげない調子で問いかける。