純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「奥様はどんなお方なんですか? 九重家の内室に選ばれるくらいですから、きっと品行方正で素敵なご令嬢なんでしょうけど」
やはり富井も、家柄で選ばれた娘と政略結婚したと思っているようだ。それが普通であり、おそらく社員も同様に思っているだろうが、別に隠しているわけではないので正直に答える。
「名家の出身でもない普通の子ですが、人一倍心が綺麗だと思いますよ」
睡の無垢な笑顔を頭に浮かべると、自然に口角が上がっていた。
それは、時雨が仕事中に見せるものとはまた違った優しい笑み。富井は目を見張ったが、すぐに政略的ではないと察したらしく表情を緩める。
「そうでしたか。恵まれましたね、恋愛結婚できるなんて」
嫌味のない温かな口調で言われ、時雨は笑みを浮かべたまま富井の視線から逃れるように瞼を伏せた。
自ら望んだ相手との結婚ではあるが、恋愛の末に至ったものではない。今現在も、妻との接し方がわからず悶々としている。こうなったのは〝あの夜〟以降なのだが。
富井が「僕もそろそろ身を固めようかなぁ」とぶつぶつ呟いているのを耳に入れつつ、時雨はこっそりと小さくため息をついた。