純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
時雨は脱力するが、茨は経験から得ている意見を述べる。
「態度が変わったとか、急に帰ってくるのが遅くなったとか、そういう変化は不倫の兆候のひとつだぞ」
「睡は不倫なんてする子じゃない」
もちろんそう信じているので断言した。今の茨の言葉はどちらも当てはまっていて、多少なりとも心は揺れるが。
ひとつ気がかりなのは、睡と吉原へ行っていた兼聡という男の存在だ。あのあと、花魁だった頃に世話になった髪結い師だと聞いたが、本当にそれだけの関係なのかは疑わしい。
有美もなにかに感づいたのか、『睡ちゃんが大事なら、しっかり繋ぎ止めておきなさいよ』とこっそり忠告してきた。睡にその気はなくても、あの男が彼女に好意を抱いている可能性は十分ある。
「兼聡ってやつはなんなんだよ……」
ため息交じりにひとりごちると、すぐに察した勘のいい茨は片方の口角を上げる。
「またそいつの身辺調査しますよ」
「なんでも仕事にしようとするな」
茨が面白がっているのは明らかで、時雨はげんなりして言い返した。