純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 結局、なにを言っても案件にされてしまいそうなので、それ以上詳しい話はしなかった。ひとまず、睡と過ごす初めてのクリスマスについて考えることにする。

 遊郭にいた彼女は、クリスマスがどういうものだったかよく覚えていないと言っていた。せっかくなら楽しませてやりたいとあれこれ思案しているが、これまで西洋かぶれの浮かれた騒ぎだと敬遠していた時雨にはやや難しい。

 商店街に寄ったのは、とりあえず人並みに準備をしようと買い出しをするためだったのだが、ひとつ睡に聞きそびれていたことを思い出した。

 家路についたあと、夕食を食べながら彼女になにげなく問いかける。


「君はケーキを食べたことはあるのか?」
「はい、ヱモリでちょっとだけいただきました。これまで食べたどのお菓子とも違っていて、びっくりするくらい美味しかったです」


 味を思い出しているのか、うっとりした表情を見せる彼女に、時雨はふっと柔らかな笑みをこぼす。


「ならクリスマスケーキを注文しておこう。食べるのは二十四日と二十五日、どちらがいい?」
「あー……それは大丈夫です! またの機会で」


 想定外の返事に、時雨はぽかんと間抜けな顔になった。
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