純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 甘い菓子が好きな睡なら、もちろんケーキも食べるだろうと予想していた。なのになぜ断るのだろうかと、時雨は眉根を寄せる。


「遠慮しているのか? 気にするな」
「いえいえ、本当に! あっ、それより二十五日は日曜日でお互い休みですね! なにして過ごしましょうかね~」


 ぎこちなく笑ってあからさまに話を逸らす彼女を見て、時雨の表情が強張っていく。

 またなにかを隠しているような、自分だけ遠ざけられているような虚しい感覚を味わう。明確に嫌われているふうでもないので、話し合おうにもどう切り出せばいいのかわからず、もやもやが溜まるだけだった。


 迎えた十二月二十四日、土曜日なので時雨の業務は午前中で終わる予定だが、睡は掻き入れ時で江森夫妻が大変そうだからと丸一日働きにいった。

 仕事を終えたあと、彼女がいない間に時雨はひとり準備をしている。菊子も娘夫婦とクリスマスを祝えることになったというので、今夜のご馳走は店で調達することにした。

 商店街で買った色とりどりに光る電球を、庭のオリーブの木に巻きつけてみたりもした。部屋の中からイルミネーションが見えたら、睡は子供のように目を輝かせるかもしれない。
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