純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「時雨さんはいつも私のためにいろいろなことをしてくれるのに、私はなにもあげられなくてごめんなさい。唯一のケーキを落とすなんて、ドジすぎて嫌になっちゃう」
「まだ気にしているのか。俺は君さえいれば十分だっていうのに」
さらりと甘い発言をして、時雨はおもむろに立ち上がり食堂へ向かう。テーブルに置いてあった皿とフォークを取り、箱の中から崩れたバターケーキを適当にすくって乗せた。
再び暖炉の前にしゃがみ、睡が制する前にバタークリームで覆われたそれを口に運ぶ。
クリームの風味もスポンジの舌触りもよく、濃厚なのに甘すぎない好みの味だ。睡が一生懸命作ったのだと思うと、それだけでこの味が最上級になるのだが。
「本当に、今までで一番美味い。ほら、食べれば一緒だ」
フォークにひと口分を乗せ、睡の口元へ近づける。彼女は食べさせてもらうのに慣れていないのか一瞬ためらったものの、遠慮がちに口を開けた。
味わって「うん、美味しい」と言う彼女と微笑み合い、流れるように口づけを交わした。
互いの口内に残る甘さを確かめるように舌を絡めれば、睡が鼻から抜ける色っぽい声を漏らし、理性が崩れていく。