純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
焼き鳥やおでん、飴細工、金魚すくい。いい匂いが漂う中、ずらりと並ぶ誘惑のものたちに胸を躍らせる。ここでも時雨がひょっとこのお面を勧めてくるので、睡はむっと頬を膨らませたりもした。
お面はさすがにいらないが、露店に交じって装飾品店の店先で展示されている髪飾りには惹かれ、つい足を止める。
色とりどりの花や毬を象った簪、鼈甲やセルロイドで作られた櫛など、華やかで見ているだけで楽しい。
「どれも可愛いなぁ」
「なにか買ってやろう」
「えっ!? いえ、大丈夫ですよ! ついこの間、こんなに素敵な指輪と下駄をもらったばかりですし」
ただ思ったことを口にしただけで欲しいわけではなかったので、睡は慌てて遠慮した。
時雨は指輪だけでなく、後日新しい下駄も買ってくれたのだ。さすがにもう贅沢をする気はない。
隣で展示を覗き込んでいた時雨は、やや物足りなさそうに睡を一瞥したあと、おもむろにひとつの簪を手に取る。
「男が簪を贈るのには〝あなたの髪を乱したい〟という意味があるそうだ」
「あっ、それは知ってます。よく姉さんたちが話していました」
睡は廓にいた頃を思い出して、ぱっと目を開いた。