純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 遊郭では、馴染み客が花魁の気を引くために様々なものを贈る。簪だけでなく、豪華絢爛な着物や寝具などもそうだ。それらは客が意味を込めて贈っていると、姉女郎たちは話していた。


「紅には〝あなたの唇を吸いたい〟、帯には〝あなたを長く愛します〟っていう意味があるんだとか。それをもらえる姉さんたちを、新造や禿は羨ましがっていたんですよ」


 自分では手が出せない高価な贈り物をもらえるだけでも羨ましいのに、それに粋な意味があると知ってうっとりしていたのだ。

 懐かしい目をして笑みをこぼす睡に、時雨は意味ありげに口角を上げてみせる。


「なるほどね。じゃあ、君にはすべて贈ることにする」


 睡は一瞬ぽかんとしたあと、彼の狙いを悟って頬を赤らめる。すべて贈るということは、〝あなたのすべてが欲しい〟と言われているようなものだからだ。

 照れているうちに時雨が簪を持って店に入ろうとするので、「や、だから大丈夫ですって!」と慌てて引き止めた。

 睡にしてみれば、自分が買ってもらうより時雨になにか贈りたい。まだたいした額の金は貯まっていないのですぐには無理だが、いつか形が残るものを。
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