純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 なんとか時雨の衝動買いを阻止して再び歩きながら、睡は男性が身につけるものについてなんとなく考える。

 やはり財布やネクタイだろうか……と思案していると、気になっていたことを思い出した。


「そういえば、時雨さんはずっと蝶のネクタイピンをしていますよね。あれがお気に入りなんですか?」


 出会ったときから、時雨のネクタイにはどんなときも美しく洒落た蝶が止まっているのに気づいていた。同じものをずっとつけているので、なにか思い入れがあるのだろうかと軽い気持ちで聞いてみたのだ。

 時雨はぴくりと反応し、一瞬真顔になった。今日もスーツを着ている彼は一度胸元に目線を落としたあと、遠い日を懐かしむように目を細める。


「ああ……そう、これは大切なものなんだ。きっと一生つけ続けるだろうな」


 その口調や表情はとても優しく、そこはかとない切なさも感じて、睡の胸がかすかにざわめいた。

 彼の口ぶりからして、誰かにもらった可能性が高そうだ。ピンそのものというより、贈り主のことを大切だと言っているようにも感じる。

 もしかしたら亡くなった両親の形見なのかもしれない。もしくは親しい友人からの贈り物か、それとも……。
< 146 / 247 >

この作品をシェア

pagetop