純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
瑛一が話を切り上げたのは、ただあの場でする話ではないと配慮しただけなのか、はたまた別の理由があるのか。
なんとなく後者だと感じた睡は、境内を出る辺りで彼の背中に向かって声を投げかける。
「瑛一さん、姉さんが死を選んだ理由は他にあるのですか? なにか知っているなら教えてください」
瑛一は足を止め、感情を読み取れない無表情でゆっくり振り返る。
「私、生前に姉さんの気持ちをわかってあげられなかったことが心残りなんです。今やっと理解できたと思っていたけれど……もしそれが間違っていたら、本当に寄り添えたことにはならないから」
切実に訴える睡を見つめ、瑛一はわずかに眉を下げて口を開く。
「すべてを悟るのがいいことだとは限らない。事実を聞いたら、君は後悔するかもしれないよ?」
睡の心臓がどくんと重い音を奏でる。彼の口ぶりからして、玉響の死に睡の知らないなにかが隠されているのは明らかだ。そしてそれは、決していい話ではないのだろう。
睡は一度まつ毛を伏せて思案する。覚悟を決め、きりりとした瞳で再び瑛一を見つめる。
「教えてください。どんな運命も受けて立たなきゃ、女が廃りますから」
その言葉に目を見開いた瑛一は、ふっと苦笑を漏らす。「ずるいな、玉響の座右の銘を出すなんて」と、観念したようにまつ毛を伏せた。