純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 ──鼓動が乱れてどくどくと不快な音を立てているのは、走っているせいだけではない。覚悟を決めて聞いたはずの事実は、やはり衝撃的だったから。

 瑛一と話したあと、睡はその足で四片に会うため吉原に向かっている。ひとつだけ、どうしても確かめたいことができたのだ。

 時刻は午後四時の五分前。四片は一服しに廓を出ていたとしても戻っている頃だろう。

 藤浪楼に着くと出入りしている遊女たちがおり、以前の仲間たちに睡蓮だと気づかれて驚きの悲鳴が上がった。

 皆は再会を喜んでくれたものの、ゆっくり話している余裕がない。申し訳なく思いつつも、四片を呼んでほしいと頼んだ。 

 しばらくして入り口の向こうから四片が表れ、睡を見て嬉しそうに破顔する。


「睡! なに、そんなに私に会いたかったの?」
「ごめん四片、今日は見せてもらいたいものがあって」


 朗らかないつもの睡と違って焦っている様子に、四片はなにかあったのだとすぐに察したらしく真面目な表情になる。


「さっき浄閑寺にお参りしに行ったら、偶然瑛一さんに会ってね」
「えっ!?」


 すっとんきょうな声を上げる四片に、睡は先ほど瑛一から聞いた話の真意を確かめる。
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